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【意見公告】129. 加圧水型原子炉一次冷却材の化学分析方法-ほう素同位体比:202x

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概要

“加圧水型原子炉一次冷却材の化学分析方法-ほう素同位体比:202X”は,一般社団法人日本原子力学会が,標準委員会システム安全専門部会水化学管理分科会PWR 水化学管理指針作業会,同分科会,同専門部会及び同委員会での審議を経て制定し発行したものです。この標準では,プラントシステム全体の信頼性の維持,向上の観点から, 通常運転時, 停止時及び起動時のほう素同位体比を精度良く検知することを目的として,原子炉一次冷却材のほう素同位体(10B)比を化学分析するための具体的方法を規定しています。

加圧水型原子炉(PWR : Pressurized Water Reactor)の一次系では,高温高圧環境下で一次系構成材料及び燃料被覆管が冷却材及び減速材としての水と接触しており,水質によっては,腐食反応により一次系構成材料及び燃料被覆管の健全性に影響を及ぼす可能性があります。また,一次系構成材料の腐食により発生する腐食生成物が水中に溶け出し炉心で放射化され一次系構成材料の表面に移行して蓄積すると,これが線源となって作業従事者の被ばく線量の上昇の原因となります。このため,水化学管理を適切に行うための指針の制定が必要とされてきました。

このような状況のもと,2011 年に発生した福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ,軽水炉の自主的安全性向上の取組みのもとに“加圧水型原子炉一次系の水化学管理指針:2019”が策定されました。水化学管理の目的として,一次系構成材料及び燃料被覆管の健全性維持並びに作業従事者の被ばく線量低減の3 項目がありますが,原子力安全の基本原則のうち,一次系構成材料及び燃料被覆管の健全性維持は,“放射線リスク源を閉じ込めること”に繋がり,被ばく線量低減は,“人と環境を護ること”に繋がります。“加圧水型原子炉一次系の水化学管理指針:2019”は,これらの概念を体系化し,原子力安全の達成,維持,向上に資することを目指して制定されています。

“加圧水型原子炉一次系の水化学管理指針:2019”では,一次系構成材料及び燃料被覆管の健全性維持並びに被ばく線量低減の観点から,通常運転時の原子炉一次冷却材の水化学管理項目,制御項目,診断項目,制御値,推奨値,アクションレベル,アクションレベル逸脱時の対応及び分析頻度並びに停止時及び起動時の原子炉一次冷却材の制御値,推奨値及び分析頻度を規定しています。また,品質管理の箇条で規定されている化学分析は,加圧水型原子炉一次系における水化学管理の品質を担保するものであり,原子力安全の基本原則のうち“異常・故障の発生防止”並びに“異常・故障の検知及び拡大防止”に該当します。加圧水型原子炉一次系システム全体の安全性確保に係る分析項目について適切に運用管理するためには,精度の高い信頼性に優れた化学分析を行う必要があり,“加圧水型原子炉一次系の水化学管理指針:2019”を下支えするための化学分析方法の整備が求められていました。

この標準では,これらの項目のうちJIS などで標準化されていない原子炉一次冷却材のほう素同位体比の化学分析方法を日本原子力学会標準として規定しました。ほう素は,“加圧水型原子炉一次系の水化学管理指針:2019”において,通常運転時の原子炉一次冷却材において分析頻度並びに停止時及び起動時にはほう素濃度の制御値及び分析頻度が規定されています。ほう素は通常運転中の炉心反応度制御の観点から冷却材に添加されており,ほう素濃度の変化を確認しています。また,未臨界維持機能を有する機器として,施設の安全性を確保するための安全機能が要求されているほう酸タンク及び燃料取替用水タンクでは,停止時の未臨界担保の観点から必要な濃度以上であることを確認しています。

ここで,ほう素を構成する10B の同位体比は,通常運転中に中性子吸収により減損するものの,通常運転中の10B の同位体比の変動を適切に考慮したほう素濃度の管理が行われています。また,減損した10B の同位体比は,停止時の未臨界担保のためのほう酸補給により天然の同位体比に近づき,10B減損の程度は安全設計及び安全評価における余裕に吸収される程度に収まるように管理されることとなります。

従来,10B 減損による10B の同位体比の変動を把握することの重要性は認識されていたため,2008 年には発電事業者によって予測と実測の比較確認が実施されており,これまでと同様の運用によるほう酸補給を継続することにより,10B 減損による炉心の安全性への影響が生じるものではないことを確認しています。

上記のように10B 減損による安全性への影響が小さいことは確認されているものの,通常運転時の炉心反応度制御や,停止時及び起動時の臨界管理における安全評価の前提の確認に位置づけられることの重要性に照らして,安全性への確認は定期的に実施していくことが望ましいものです。具体的には,今後も継続して所定の設備に対して10B 同位体比を測定することで10B 減損に関わるデータを蓄積し,これらのデータを用いて安全余裕を明確化することで,安全性確認の信頼性を向上していく取り組みが重要です。

また,炉心管理においても,10B 減損を踏まえて,停止時の最小ほう素濃度や臨界ほう素濃度の評価を行っているため,10B 同位体比を継続して測定することは,炉心管理の信頼性の向上にも貢献することができます。

10B 同位体比は,質量分析計を用いて計測されますが,信頼性の高い定量分析ではほう素同位体比が既知の標準物質を使用し,試料を繰返し測定することが重要です。この標準では,10B 同位体比の化学分析の具体的な方法に関する一般事項,サンプリング,器具及び装置並びに化学分析操作を規定しています。

この標準を策定した後も,安全性向上に係る国内外の新知見を発電所の運用管理に適切に反映するため,プラントの運転経験及び新知見に基づく適用事例を解析しフィードバックを図ることにより,最新の化学分析技術を取り入れ,標準の改定を適宜行っていきます。このような活動を通じて,原子力発電所の継続的な安全性向上に寄与できるものと期待されます。

お問合せ先,ご意見提出先

一般社団法人 日本原子力学会 事務局 標準委員会担当
所在地:〒105-0004東京都港区新橋2-3-7 新橋第二中ビル3F
E-mail:sc[a]aesj.or.jp  ←[a]を@に置き換えてください
Tel:03-3508-1263  Fax:03-3581-6128

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