理事会だより
「原子力総合シンポジウム2024」報告
1.はじめに 原子力総合シンポジウムは、我が国の原子力について総合的に議論を行う場として、日本学術会議と日本原子力学会(以下「本会」という。)等が協力し、各界の識者を交えて、1963年以来、これまで50年以上にわたり中長期的視点から議論が行われてきた。
2024年度は、日本学術会議総合工学委員会原子力安全に関する分科会(以下「本分科会」という。)(委員長 関村直人)が主催し、本会を含む23学会の共催、15学会の協賛、6学会の後援のもとに、2025年1月20日(月)、日本学術会議講堂においてオンラインとのハイブリッド形式で開催された(参加者総計370名:講演者等13名、その他の参加者:現地参加51名、オンライン参加306名)。
関村委員長の開会挨拶の後、午前の部では、本分科会における「原発事故の環境影響に関する検討小委員会」の3名の専門家からの活動報告が行われた。午後は、「原子力のリスクをどのように考えるか」をテーマにした招待講演と総合討論が行われ、本会 大井川宏之会長により閉会挨拶が行われた。
講演資料は、本会のホームページに掲載されている(https://www.aesj.net/nationalsymposium2024)。
2.プログラム(敬称略)
開会挨拶:関村直人(日本学術会議連携会員/東京大学名誉教授/東京大学大学院工学系研究科上席研究員)
「原発事故の環境影響に関する検討小委員会」の活動報告
司会 越塚誠一(日本学術会議第三部会員/東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授)
「原発事故の環境影響に関する知見の進展・蓄積と課題」
森口祐一(日本学術会議第三部会員/国立研究開発法人国立環境研究所理事(研究担当))
「原発事故の大気拡散評価」
山澤弘実(名古屋大学名誉教授/公益財団法人環境科学技術研究所理事)
「原発事故とALPS処理水放出の海洋環境影響評価」
津旨大輔(筑波大学放射線・アイソトープ地球システム研究センター教授)
招待講演:原子力のリスクをどのように考えるか
司会 野口和彦(日本学術会議連携会員/横浜国立大学IMSリスク共生社会創造センター客員教授)
「安全目標を巡る議論について」
更田豊志(原子力損害賠償・廃炉等支援機構上席技監/東京大学大学院工学系研究科上席研究員)
「複雑システムのリスクとステークホルダコミュニケーション」
小野恭子(日本学術会議連携会員/国立研究開発法人産業技術総合研究所安全科学研究部門研究グループ長)
「リスクインフォームド・パフォーマンス・ベースの検査制度と多様なステークホルダーの関与」
近藤寛子(合同会社マトリクスK代表)
司会 岩城智香子(日本学術会議連携会員/東芝エネルギーシステムズ株式会社エネルギーシステム技術開発センターシニアフェロー)
「原子力のリスク&ベネフィット」
上坂充(原子力委員会委員長)
「原子力安全と継続的改善」
伴信彦(原子力規制委員会委員長代理)
総合討論
コーディネーター 関村直人
パネリスト
森口祐一、野口和彦、更田豊志、小野恭子、近藤寛子、岩城智香子、上坂充、伴信彦、大井川宏之(日本原子力学会会長)
閉会挨拶:大井川宏之
3.開会挨拶と「原発事故の環境影響に関する検討小委員会」の活動報告
最初に、関村氏から開会挨拶が行われ、原子力総合シンポジウムの歴史と意義、2024年度のシンポジウム・テーマとともに、原子力と社会を巡る課題認識として、エネルギー安全保障と低炭素社会における原子力の役割、セキュリティや多様なステークホルダーのリスク認識、安全文化の維持と課題、自然災害リスクへの対応、福島第一原発事故の教訓とリスク管理、レジリエンスの確保について、本シンポジウムにおいて多様な方々の参加のもと、横断的な視点で議論を深める重要性と期待が述べられた。
続いて、越塚氏の司会により、森口氏、山澤氏、津旨氏から、原発事故の環境影響に関する検討小委員会の活動として、環境影響に関する知見の進展・蓄積と課題、原発事故の大気拡散評価、ALPS処理水放出の海洋環境影響評価の報告が行われた。講演資料は、前述のサイトに掲載されている。質疑応答においては、東京電力や環境省が日々公表している海水中のトリチウム測定データやその他の放射性核種の測定結果を活用し、動態モデルの分析と併せて定量的な全体像を示すことの可能性、大気拡散予測技術の適切な使い方、海産物の放射性物質濃度に関する誤解やフェィクニュースへの対応、多言語での情報発信の重要性などの意見が交わされた。
4.招待講演と総合討論の概要
本年度の招待講演のテーマは、「原子力のリスクをどのように考えるか」であり、野口氏、岩城氏の司会により、更田氏、小野氏、近藤氏、上坂氏、伴氏の5名の方々の講演が行われた。講演資料が前述の本会サイトに掲載されているので、ご高覧いただきたい。質疑応答においては、市民の方から、バックフィット制度(新規制基準適合性審査)の適用と市民への情報の公開、地震への対応、緊急冷却装置について質問があり、更田氏から、巨大地震や津波に際しても原子炉が守られるような新たな設備要求を含めた基準を設け、既設のものに適用されている旨、説明が行われた。また、越塚氏から、規制側と被規制側が対等な立場で議論できる場が少ない中での学術界の役割について質問が行われ、伴氏より、外からの印象として、本会は分野ごとに専門が細分化され、幅広い参加者を集めるのが難しいように見えるが、日本学術会議のように原子力以外の分野(人文社会科学など)の専門家も含めた場で対等な議論ができることが有用ではないか、そのような議論の場を作っていくことが大事であるとの意見が述べられた。
総合討論は、関村氏をコーディネーターとして、5名の招待講演者の更田氏、小野氏、近藤氏、上坂氏、伴氏に、午前の部でご報告された森口氏、招待講演の司会を務められた野口氏、岩城氏と大井川氏の4名が加わって行われた。最初に、野口氏と岩城氏、そして、大井川氏から、それぞれショート・プレゼンが行われた。野口氏、岩城氏のプレゼン資料は、前述のサイトをご高覧いただきたい。大井川氏は、本会会長就任(2024年6月)時に掲げた三つの重点項目—「伝える」「つながる」「育む」—について言及され、特に、「伝える」に関して、原電敦賀発電所2号炉の審査結果に関連してリスク情報の活用の重要性を強調する声明の作成に当たり、学会内で活発な議論が行われ、メーカー、電力、大学、研究機関といった多様な立場の意見を調整し、一つの結論にまとめることができたことの経験が共有された。一方で、学会内での議論だけでなく、学会外の多様なステークホルダーとの連携(「つながる」)が今後の課題であること、今回の日本学術会議で行われる議論は、その連携を深める良い機会であり、今後さらに議論を進めたいと述べられた。
その後、パネルディスカッションとして、(1) 原子力のリスクとそのマネジメント、(2) 社会の多様なステークホルダーと原子力のリスク、(3)学術界が果たすべき役割 の3つの観点について、(1)と(2)を合わせて多岐にわたる議論がなされた後、(3)について議論が行われた。重要なポイントとして筆者の印象に残ったキーワードを網羅的に挙げると、リスク評価における不確実性と規制の課題、日米の規制の違い、PRA(確率論的リスク評価)と意思決定、社会と専門家の双方向のリスクコミュニケーション、リスクとベネフィットのバランス、原子力のメリットの伝え方、専門分野の壁を越えた議論、日本学術会議と学会の連携によるリスク情報の体系的整理や社会的影響を踏まえた提言、原子力工学と人文社会科学の連携など学際的なアプローチの重要性であった。
5.閉会挨拶
大井川会長からの閉会の挨拶において、福島第一原子力発電所事故から14年経過した今、事故の反省から一歩進んで、安全やリスクを咀嚼し、原子力の最大限の利用にどのように結びつけていくかのフェーズになっていること、安全目標の議論を拙速ではなく、しかし、スピード感を持って議論していく必要性が述べられた。また、日本原子力学会として他の学協会や人文社会系の方々にもご参加いただくことが大切であり、原子力の議論を行うことに興味がある、面白い、社会実装につながる、社会に役立つフィールドであると思っていただける発信の重要性が語られた。
6.おわりに
アンケート結果においては、良かったという割合が9割、わかりやすかったが8割という回答割合であった。所属別では、企業2%、研究機関22.2%、大学・高専が11.1%、官公庁・地方自治体が7.6% 、専門分野別では、原子力・放射線が64.6%、その他理工学が18.8%、人文社会科学が9.0%であった。本シンポジウムにおいては、本分科会の優れた企画により、原発事故の環境影響、原子力のリスクの考え方について、幅広く、かつ、先進的・専門的な報告と議論が行われ、参加者の方々の満足度も高かった。
リスクの定義や受け止め方は、所属組織が持つ歴史や文化、個々人の認識や価値観で大きく異なると考えられる。リスク観の異なりをお互いの壁とすることなく、今後とも、日本学術会議や本会、その他様々なステークホルダーを対象に企画される意見交流の場を通じて、「総合知」が育まれ、効果的なリスクマネジメント、リスクコミュニケーション、さらには、原子力が持つ大きなポテンシャルとメリットの認識共有につながることを期待している。
最後に、今回の原子力総合シンポジウムの開催に当たり、本会の学術連携WGグループ主査を務めさせていただいたが、委員の皆様とともに、本会事務局に運営面など大変お世話になったことに感謝申し上げる。
塩満 典子(山陽小野田市立山口東京理科大学学長補佐・特任教授)