一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

「2024年秋の大会」理事会セッション報告

1.はじめに
 2024年9月11~13日に仙台の東北大学川内北キャンパスにて開催された日本原子力学会2024年秋の大会において、企画セッションの1つとして理事会セッション「地震・津波に対する原子力発電所の安全性 ~能登半島地震から学ぶ~」が第2日目の9月12日に原子力安全部会との共催として実施された。
 2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震により、我が国が地震の多発する地域であり、原子力発電所における地震・津波対策が極めて重要であることが改めて認識された。一方で、東日本大震災以降、原子力発電所の地震・津波対策は大幅に強化されている。そこで、本セッションでは地震・津波の専門家を招いて、最近の我が国における地震・津波の発生状況や、原子力発電所における地震・津波対策の現状をご講演いただくとともに、総合討論にて議論を深めることとした。
 冒頭、大井川宏之会長(日本原子力研究開発機構)より本セッションの趣旨が説明され、令和6年能登半島地震を含めた地震や津波の予測の現状について専門家よりご講演いただく情報を共有するとともに、新規制基準対応状況について議論を深めたいと述べられた。
 なお、本セッションの司会は筆者が務めた。

2.東日本大震災以降の我が国の地震の想定・長期評価
 東京大学名誉教授の佐竹健治先生よりご講演いただいた。地震の長期評価である「全国地震動予測地図」は、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに政府に地震調査委員会が設置され、海溝型地震および活断層地震について今後30年以内の地震の発生確率を評価したものであり、2005年に初版が刊行され改訂が続けられている。2011年の東日本大震災を受けて、海溝型地震の評価手法は見直され最大クラスの地震・津波の想定がされるようになり、日本海沿いの長期評価や、海溝型地震の長期評価がなされた。活断層地震の評価は、「全国地震動予測地図」に含まれる活断層のほか、より小さな活断層を含む「地域評価」を約10年前から実施しており、2024年までに「関東」「九州」「中国」「四国」について公表された。近畿地方については審議中である。海域活断層は2022年から評価している。
 令和6年能登半島地震は「富山トラフ西縁断層」「能登半島北岸断層帯」と名付けられた断層による地震であった。能登半島についてはこれまで3つの独立した調査が行われている。今回の地震について、地殻変動の記録からどこが滑ったかが調べられた。地震における滑り量を長期評価と比較すると、「能登半島北岸断層帯」が概ね予測と整合する一方で「富山トラフ西縁断層」における滑り量は予測よりも小さかった。従ってこの断層ではまだM7クラスの地震が起きる可能性があるとのことであった。
 今後の滑り切らなかった活断層による地震の発生確率はどの程度なのかとの質問に対して、一般的に活断層地震の頻度は海溝型地震の頻度よりもかなり低いとのことであった。また、活断層地震の予兆について法則性はないのかとの質問に対して、令和6年能登半島地震はかなり特殊であり、2020年頃からM5クラスの地震が起きており、流体が関係しているという話もあるとのことであった。

3.能登半島地震による津波の発生と影響
 東北大学災害科学国際研究所教授の今村文彦先生よりご講演いただいた。令和6年能登半島地震は活断層地震であり、津波は主に能登側と上越側に伝播した。沿岸部への津波の到達は非常に早く、また発生した津波は日本海という閉鎖空間の中で伝播してほぼ1日中繰り返し襲来した。複雑な伝播があり必ずしも第一波が最大波ではなく、第二波以降が高い場合もあった。富山湾では海底地滑りによると思われる津波が、地震による津波よりも前に沿岸部に到達していた。こうした情報は事後解析により裏付けが取れてきているが、リアルタイムではどの程度把握されていたのかは分かっていない。志賀原発には地震発生後1~3mの津波が複数回到達したが安全性への影響はなかった。東北大学が作成したモデルによる津波のシミュレーションは、志賀原発の波高計および水位計に記録された津波と整合する結果を与えた。気になる点として地震直後の原発のオペレーションにどう使われたかであるとの指摘があった。今後の津波対応においては、サイト内の観測データだけでなく、サイト外の観測データの利用も重要である。沖合の津波計や周辺地域の状況など多様な観測データに基づいて事前に津波情報を把握して対応に反映させるのが良いと述べられた。
 会場より、津波が24時間続いたということに驚いたが、沿岸部の地形で跳ね返りの強度は変わるのかとの質問があった。日本海が閉鎖空間であることに加えて、日本海の東縁部に浅瀬が多いことで、複雑な挙動になるとの返答があった。

4.原子力発電所の耐震・耐津波の現状 ~能登半島地震を踏まえて~
 日本大学工学部教授で土木学会原子力土木委員会委員長の中村晋先生よりご講演いただいた。わが国では審査指針策定以降26回の大地震が起きている。原発に被害が出た地震として、2007年の能登半島地震、新潟県中越沖地震、2011年の東日本大震災、今回の令和6年能登半島地震が挙げられる。令和6年能登半島地震による原発被害を土木学会原子力土木委員会で調査したところ、敷地内で観測された地震加速度は399gal、敷地の隆起等は上下に4cm、水平方向に12cm、到達した津波高さは3.3mであった。敷地内で観測された地震動と基準地震動(Ss)のスペクトルの比較を実施したところ、どの周期においてもSsを下回っていた。観測された揺れを入力として建屋の耐震解析を行ったところ許容範囲内であり、津波遡上高さも許容範囲内だった。敷地周辺の活断層については活動した痕跡は見られなかった。また、敷地内の断層についても活動している痕跡は見当たらなかった。変圧器の絶縁油漏れなどの被害があったが、それ以外の点については、新規制基準までの一連の地震津波対策の強化や、リスク管理に基づいたシビアアクシデント対策が効果を発揮していることが確認できた。個々の事象に対するリスク管理上の対策が十分機能していることは示されたが、課題として、リスク情報を活用した安全評価の体系化が必要であること、そして、安全目標・性能目標を考慮して発電所全体の事故シナリオに影響を及ぼす重要設備を同定し必要に応じて見直すようにすべきとのことであった。また、複合災害に対して原発サイト外との防災に関わる情報の共有といった一般防災との連携強化などが必要であるとの指摘があった。

5.総合討論
 講演者3名に大井川会長及び名古屋大学教授で原子力安全部会長の山本章夫先生を加えて、令和6年能登半島地震から何を学ぶかについて、総合討論を行った。
 まず、大井川会長より、防災に関して他学会・他分野との交流を深めていくことが重要であり、原子力災害を一般災害と区別するのではなく、一緒に考えることが大事であるとの意見が述べられた。次に、山本先生から他分野における検討結果について、原子力関係者は単純化された情報しか得ていないのではないか、また、コミュニケーションの過程で情報が抜け落ちていないか不安であるとの指摘があった。佐竹先生からは、地震についての知識は、調査委員会の活動も含めて、阪神淡路大震災以降かなり明らかになってきたが、現在進行形であるのが現状であり、令和6年能登半島地震については活動層や津波は想定内であったと述べられた。今村先生からは、地震や津波の研究について人材育成を継続できるような環境が必要であり、原子力発電所は監視体系がそろっているので、原子力発電所内だけでなく外部へも情報を発信してもよいのではないかとの意見が述べられた。中村先生からは、複合災害時の一般防災と原子力防災は連携する必要があると指摘され、いち早くモニタリングする仕組み、およびリスク評価をベースとしたリスク管理が必要であり、これを使ってコミュニケーションを広げていけばよいとの意見があった。
 さらに会場との意見交換が行われた。被災時に復旧対応用のライフラインを保持することは中長期の原子力発電所の対応においては重要ではないかとの質問があり、中村先生より、災害対応においては耐震性を高める等の努力で被災時の復旧にも対応しやすくなるとし、これまでに防災上の対応や復旧対応については経験を積んできており、緊急車両の通行可能な重要なアクセス道路の復旧は1日程度で行われるようになったとの返答があった。一般防災と原子力防災の統合が重要であるが良好事例はあるのかとの質問に対して、中村先生より、原子力土木委員会で複合災害への対応について委員会を立ち上げて検討しているとの返答があった。


総合討論の様子

6.おわりに
 2024年1月1日に令和6年能登半島地震が突如として発生し、志賀原子力発電所が被災して、被害状況が報告されている。しかしながら、これまでの地震の経験に基づいた対策の強化によって原子力発電所の安全性は強化され、今回の令和6年能登半島地震では原子力発電所の安全性が脅かされることはなかった。その一方で、日本海側特有の繰り返し押し寄せる津波や、一般防災との連携など、新たに注目すべき課題も浮かび上がった。
 会場には約120名の聴講者が集まり盛況であった。さらに、翌日の9月13日には原子力安全部会の企画セッションとして令和6年能登半島地震が再度取り上げられ、継続して議論が行われた。
 令和6年能登半島地震では地域に大きな被害がもたらされ、現在も復興の途上にある。さらに9月になって、同じ地域に大雨による大規模な水害も発生した。地震、津波、水害に遭われた方々には心よりお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復興をお祈りする。

越塚 誠一(副会長、東京大学)