理事会だより
情報発信特別小委員会の報告とアクションプラン
1.はじめに
「情報発信特別小委員会」は、2022年度に理事会直下に設置され、2年にわたって本会における情報発信戦略の検討等を進めてきました。この間、本会各組織における情報発信の現状と課題に関するアンケート調査を実施し、その結果を踏まえて、2023年秋の大会の理事会セッションでは社会に対する情報発信のあり方を中心に議論しました(2023年11月の理事会だより参照:https://www.aesj.net/rijikaidayori-20231101)。その後、報告書案を作成し、本会各組織にコメントをいただいた上で、2024年3月に報告書として取りまとめました。報告書は、会員専用サイトでご覧になれます。(https://www.aesj.net/membership/report/)
本稿では、報告書の概要、アクションプラン、主査を務めた筆者の所感などを記します。
2.アンケート調査の結果と分析
アンケート調査は、2023年1月から2月にかけて実施し、15常置委員会、7支部、16部会、4連絡会から、105項目に関する回答をいただきました。その結果、発信対象別に以下のような分析結果を得ました。
2.1 学会員への情報発信
学会誌及びメーリングリストが有力な情報発信ツールであり、機能を発揮しています。本会ホームページも会員の利便性向上に有効ですが、その維持管理の労力が十分に確保できていない状況が浮き彫りになりました。多くの委員会や部会が独自のホームページを開設しており、そのコンテンツは膨大かつ有益な情報を多く含んでいますが統一性がなく、会員がこれらのコンテンツを十分に利用しているかどうかも確認できる仕組みがありません。
2.2 地域の住民・自治体への情報発信
各支部でオープンスクールや講演会が行われています。また、福島特別プロジェクトの活動は、地域密着の活動として極めて重要なものですが、ボランティアベースの活動の限界もみられました。
2.3 国民一般への情報発信
主にホームページとプレス発表が使われていますが、本会ホームページを一般の人が訪れる機会は、何らかの検索によってヒットした時だと思われます。そのため、本会としてより積極的に情報発信を行っていくには、SNS等の活用が必要だと考えます。本会公認の動画サイト「あとみる」チャンネルは挑戦的な取組ですが、今のところ発信力は限定的なようです。ウィークリーウェビナーは会友や非会員を対象としたものですが、これまでの参加者数は数十~100人/回程度で、情報発信の機能としては工夫の余地がある状況でした。部会等が実施する講演会やセミナー等には非会員も参加できるものも多いのですが、参加募集が国民一般に届く機会がほとんどないため、参加は限定的になっています。
2.4 マスコミへの情報発信
年間10件程度のプレスリリースを行っていますが、一般紙・テレビで記事化・放映されることは稀です。ポジション・ステートメントは新規発出が滞っていましたが、新たな仕組みを整備したので、今後有効に機能することが期待されます。社会・環境部会は、メディアの関心が高いテーマに関して専門家によるレクチャーを年1回実施し、効果を上げています。
この他、会友、他の学協会、教育課程にある者、政府機関、国際機関・国際社会等に対する情報発信の状況については報告書をご覧ください。
全体を通して、各組織が情報発信に要する労力を確保することに苦慮している状況が浮き彫りとなりました。事務局は少人数で多くの作業をこなしており、またホームページの管理等にはスキルも必要であることから、なかなか情報発信の強化が進んでいないのが現状です。また、特に国民一般に情報を伝えるツールがほとんどないことが浮き彫りになりました。
3.アクションプランと今後の進め方
上記の分析を踏まえ、情報発信特別小委員会ではアクションプランを検討しました。検討に際しては、各アクションの目的、訴求先、実施者、必要リソース、期待される効果、スケジュールを明確にし、少ないリソースで効果の高い項目、簡単に着手できる項目から取り組むこととしました。このアクションプランを理事会に提案し、今後は、所掌する各組織において、施策を進めていただくこととしました。主なアクションプランと所掌組織は以下のようなものです。
(1)SNS活用の体制構築(広報情報委員会)
X(旧ツイッター)を活用して本会主催のシンポジウムの告知や各委員会等の報告書のwebサイト上の所在を発信するための体制を早急に整える。
(2)本会らしい情報発信のためのチェックリストの作成(理事会、広報情報委員会)
2023年秋の大会、2024年春の年会の理事会セッションでの議論を参考に、メディアの視点から本会に期待する情報発信機能(独立性、公正性、アーカイブ性、先進性、選択肢の提示等)を意識したチェックリストを作成し、各組織で共有して情報発信の促進に活用する。
(3)積極的なポジション・ステートメントの検討(理事会、企画委員会、各常置委員会・部会等)
GXに向けた社会への貢献や、1F廃炉・環境回復に関する提言、その他、本会の考え方としてタイムリーに社会に発信すべき事項について、ポジション・ステートメントを検討する。
(4)情報のアーカイブ化の促進策の検討(部会等運営委員会、広報情報委員会)
年会及び大会における企画セッションや、各部会等が保有する報告書類・発表資料等について、アーカイブ化し、情報発信しやすいように整理する方策について検討する。
(5)双方向コミュニケーションの活性化策の検討(企画委員会、支部協議委員会)
2022年秋の大会の理事会セッション「社会と対話するために学会が取り組むことは?―学会内外の活動からの視点―」で指摘があったコミュニケーションにおける「共考」や「協働」の重要性に鑑み、学会における双方向情報発信の取組の強化について検討する。
(6)各常置委員会での検討(理事会、各常置委員会)
情報発信の対象ごとに、各常置委員会が実施している活動の実態及び組織横断的な連携状況等について、報告書記載の分析や良好事例を参考に、漏れや重複がないか確認し、効果的な情報発信に向けた推進策の検討を進める。
4.おわりに
情報発信の強化は歴代会長からの引き継ぎ事項ですが、現在までなかなか効果的な手が打てていません。たとえばSNSの活用は、「炎上」を恐れる意識や、労力が確保できないという実務上の課題により実施に至っていませんが、私自身はシンポジウムの開催案内などからスタートし、様子を見ながら徐々に発信の対象とする範囲を拡大していけば良いと考えています。お手伝いしていただける会員がいらっしゃればご連絡ください!
私は2024年度の会長に就任するにあたり「伝える」「つながる」「はぐくむ」をキーワードに掲げ、情報発信を理事会の最優先事項として、理事の皆さんにご協力をお願いしました。上記のアクションプランの趣旨を本会各組織でもご理解いただき、自主的な活動に取り組んでいただけると、本会のプレゼンス向上につながるものと期待しています。私も微力を尽くして参りたいと思います。
大井川 宏之(会長、日本原子力研究開発機構)