理事会だより
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「多様性とイノベーションの未来へ」
2023年1月、日本原子力学会は、学会内の多様性を高め、 多様な価値観、能力、経験、個性を持つ人材を活用し、社会の持続可能な発展に向けた新たな価値創造とイノベーションを推進するための「ダイバーシティ&インクルージョン推進のためのアクションプラン」1)を策定しました。現在、このアクションプランに基づいて活動を進めております。このアクションプランについては、AESJ NEWSでも情報発信を行いました。
当学会内でダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進することについて異論はありませんでしたが、その実現方法については、さまざまな視点からご意見をいただいています。以下に代表的なご意見を紹介します。
・D&Iに関する意識改革が不可欠である。・日本のD&Iは、海外と比較して相当遅れていることをアピールすべきである。
・女性会員の増加を図るべきである。
・女性の評価を優遇するのは逆差別ではないか。
・女性・障害者の年会費を割安に設定して、入会しやすくすることも検討してはどうか。
D&Iに関する意識改革は、ダイバーシティ推進委員会でも非常に重要な課題と位置づけています。
今回のアクションプランでは、これまでダイバーシティ推進委員会で実施していた、学会内の多様性の向上や次世代への取り組みを強化し、ポジティブ・アクションを導入しています。ポジティブ・アクションは、一定の範囲内で特別な機会を提供することにより、実質的な機会均等を実現するための暫定的な措置のことを指し、さまざまな方法が存在します。当学会のアクションプランで採用しているのは、クォータ制(性別や年齢を基準に一定の人数や比率を割り当てることによって、実質的な機会均等を実現する方式)で、賛否両論あるプラス・ファクター方式(同等な能力を有する場合に一方を優先的に取り扱う方式)は採用していません。クォータ制では、直接の評価の優遇は行わないため、「女性の評価を優遇するのは逆差別ではないか」というご意見は、クォータ制とプラス・ファクター方式を混同している可能性があります。
筆者は、原子力分野の研究には関連するものの、いわゆる原子力分野の組織ではない所に、数年間在籍した経験があります。そこでは、採用、一般職、管理職において、ダイバーシティやジェンダー平等を声高に叫ばなくとも、女性が自然な形で半数程度在籍していました。意思決定プロセスにおいても、女性の視点が自然に反映されていました。
こうした状況は本来自然に達成されるべきですが、歴史的な価値観や慣習、その他の要因により、男女比が著しく不均衡な社会や組織では、クォータ制を導入して女性の比率を適切に高め、多様性に富んだ社会や組織を実現していくことに大変意義があります。
クォータ制のメリットは、女性の登用を通じて組織の多様性を向上させ、新たな価値創出の可能性を開くことです。現代の国際情勢を考えると、組織の多様性は必要不可欠であり、迅速な変化やイノベーションを促進するためには柔軟な思考と行動が求められます。クォータ制は2022年現在、世界の130カ国以上で導入されており、ジェンダーギャップの解消に向けた画期的な制度として国際的に認められています。
アクションプランの実行1年目においては、数値目標の達成よりも、アクションプランのビジョンが各組織においてどのような意味を持つかを考えていただき、まず行動に移すことを最も重要視しています。2022-2023年度の各常置委員会の引継ぎ資料には、ほとんどの委員会で、D&Iに関する記述が見受けられました。これは、前年度までには見られなかった傾向です。このように、1年目では、意識改革が徐々に進展していますが、次の2年目の活動が一段と重要性を増すと考えています。
今後は、多様性が新たなアイデアや視点を生み出し、組織の成長にどのように貢献するかを実証し、実績を示すことが求められることでしょう。こうした研究や統計は海外を含む他分野では存在し、提供可能ですが、原子力分野や当学会内での実績を積み上げていくことも必要です。そのためには、当学会の女性メンバーに個性的なリーダ―シップスタイルやコミュニケーション方法を探求していただきたいと思います。
ダイバーシティ推進委員会では、アクションプランのビジョンを実現するために、会員のD&Iへの意識を向上させる努力を継続し、段階を踏んで着実に前進していきたいと考えています。
参考資料
1)http://www.aesj.or.jp/~gender/action.html
===== 学会誌ATOMOΣ2023年11月号掲載 =====
小林 容子(ダイバーシティ推進委員長、情報通信研究機構)