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- ISBN : 978-4-89047-422-6
- 担当部会 : 日本原子力学会地震安全基本原則分科会
- 版型頁数 : A4/106
- 発行年 : 2019/12/25
- ISBN : 978-4-89047-422-6
- 担当部会 : 日本原子力学会地震安全基本原則分科会
- 版型頁数 : A4/106
- 発行年 : 2019/12/25
内容紹介
<序より>
原子力発電所を設置する、あるいは既に設置されている目的は、社会に安定した電力を供給することである。我が国のエネルギー基本計画における位置づけにおいても、原子力は「安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である」と記されている。“社会に安定した電力を供給すること”は、原子力発電所の社会的役割(便益)であり、それを供用期間中に継続的に果たすことを本書では“供用性(serviceability)”と定義する。
ここで認識を共有しなければならないことは、“安全が確保されている”とはどのような状態なのか、である。これは、社会との対話の中で決まるものであり、単に発電所の技術的、運営的な事柄の解決だけではない。“絶対安全”は存在せず、我々の知識や経験も完全ではない中で、対象とする原子力発電所の潜在的危険性(リスク)が社会に受容できるレベルにまで抑制されていると合理的に判断できる状態が“安全が確保されている”状態と言い換えることができる。この状態を前提に、社会として必要とされる供用性を確保することが原子力発電所を設置する目的となる。
さて、我が国は地震国であり、災害をもたらす大地震あるいは巨大地震の脅威に常に曝され、数多くの災害経験を持ちながら、“安全の確保”を前提とした“供用性”の確保のため、原子力発電所のみならず一般の建築物などの耐震性の向上に努力してきている。
また、地震及び地震による災害の特徴として、①地震事象の評価には極めて大きな不確かさが介在すること(不確かさ)、②地震による影響は極めて広範囲となること(広域性)、③多くの設備、構築物などに共通して作用すること(共通原因)、④多様な外乱(地震による揺れに加えて、余震、津波、斜面崩壊や地盤の変位・変形等)が随伴して生じる(随伴性)ことが挙げられる。
これらの特徴を踏まえて、地震国日本において、如何に原子力発電所の“安全を確保”するかを前提に“供用性”を確保するか、また、新たな知識や経験が得られたときに如何に“安全性の向上”に繋げていくか、が問われ続けてきている。例えば、次のような問いが設定できる。
・地震の揺れが原子力発電所の設備等に共通的に影響を与えることに対して、如何なる方策で原子力安全確保の対処を行うのか。
・どの大きさの地震に対して原子力発電所の安全確保のために、設備等を如何に設計し、要員の体制も含む対応策を講じていくのか。
・地域社会が地震災害に見舞われたとき、原子力発電所は如何に電力の供給を継続するのか。
・地震により原子力災害が生じるおそれがあり、地域社会も地震による災害に見舞われている中での地域住民に対する防災対応は如何に講じるべきか。地域社会が地震による災害に見舞われているときに、原子力発電所は如何なる関与をするのか。
2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故後に制定された規制基準に基づき、原子力発電所の安全性の確認が進められているが、上記のような問いに対して電気事業者や規制機関、研究開発機関等の原子力安全に関与する者が社会に対し十分に説明できていないと考える。
その理由は、このような問いに対する包括的・俯瞰的で首尾一貫した基本的な考え方が、原子力発電所の安全にかかるすべての関係者に共有されていないためではないだろうか。このため、どの程度の大きさの地震に対しどの程度の対策を行うかの判断にばらつきが生じている状態だと認識される。この状態のまま放置すると、現時点では地震対策の強化、規制基準の改善により安全性は確保されているが、大地震が起こるたびに可能性が否定できないという理由だけで更なる補強を続けていくことになり、それが本当に将来を通じた継続的安全性向上になるのか疑問がある。
このような状況を打開するため、基本的な考え方(本書では“地震安全の原則”と呼称する)と、原則を実践に繋げる方法論(本書では“アプローチ”とする)も含めてとりまとめることがまず必要と考え、これを学術の立場から、関連する各分野の研究者、技術者による横断的な研究委員会により検討を進めた。本来、地震および地震随伴事象の重畳だけではなく、地震と他の自然災害との重畳も複合災害の観点では重要であるが、本書ではまず地震および地震随伴事象に対する考え方の整理を行った。原子力利用全般に関する基本安全原則として、IAEAからFundamental Safety Principles (SF-1)が発行されているが、本原則は地震および地震随伴事象に対処する上で特に重要なものに着目したものである。
安全目標は、安全が確保されている状態を評価するための目安となるもので、社会的に存在するリスクを勘案して受容可能なリスクレベルを定性、定量的に設定するものであり、安全目標の設定が達成すべき安全の最上位の重要項目となる。安全目標については本書においても重要な用語として別途詳細に解説しているが、対象とするものの稼働・不稼働がもたらす人・社会・環境への多様なリスクを勘案し、工学的な観点を踏まえ技術的かつ経済的に実現可能なものが安全目標であると考える。
安全目標自体は原子力発電所システムに対する最上位のものであり、安全目標を達成するために必要なシステムの性能に対する目標(性能目標等)が必要となる。原子力安全において、安全目標の設定とそれに基づく性能目標等の設定に対する考え方や具体的な設定に関する議論は非常に重要である。その一方で上述の通り、システムに対して設定された性能目標等に対する基本的で包括的・俯瞰的で首尾一貫した考え方(基本的な考え方)が十分に共有されていない。本書では地震を対象として、この基本的な考え方とそれを実践に繋げる方法論に重点を置いて議論を行うこととした。
本書における基本的な考え方は、安全目標やそれに基づき設定される性能目標等に対するものであり、それはリスクに対するものとなる。上記特長の①(不確かさ)に対しては、従来から用いられている決定論的な評価の考え方に加え、確率論的な評価を含むリスク論のより積極的な活用(リスク評価)が有効であり、②(広域性)、③(共通原因)、④(随伴性)を包括的・俯瞰的に取り扱うためには、深層防護の概念に基づき地震現象に対し重点化された方策が効果的となる。このため、リスク評価を含めた統合的な意思決定プロセス、深層防護概念の適用を踏まえ、ハード(機器単体や機器集合としての設備)だけではなくソフト(マネジメント)も含めた総合的なシステム(総合システム)としての継続的な安全の確保および向上について、より合理的で首尾一貫した考え方の検討を行った。我が国のエネルギー政策における基本的要諦は、「安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図るため、最大限の取組を行うことである」とされている。本書の基本的考え方は、グレーデッドアプローチのもと投入されるリソースによるそれらの効果を最大限に発揮させる形で具体化される必要がある。
今後、本書における基本的な考え方および実践的なアプローチについて、原子力に携わる全ての関係者の共通理解とされることで施設と活動に具体的に展開され、適切に適用される事でより一層の合理的で継続的な安全性向上が図られることを期待している。
さらに、本書の考え方の浸透を通じて、国内に限らず広く原子力発電所のリスクをどのように捉えるか、原子力発電所をどのように活用していくかの議論の深化にも資することができるのではないかと考える。このため、今後本書の考え方を国内の関連するステークホルダーに発信するとともに、国際会議等での海外発信を積極的に行い、より広い場で本書の考え方を議論、深化させる予定である。
併せて、社会としての安全目標に係る議論の深化にも繋がることが期待される。原子力発電所の活用に関する意思決定の主体は国民であり、しっかりとした意思決定のためには、リスク評価の実践と、意思決定の判断の目安となる安全目標に係る議論に繋がる取組みが求められている。