一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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本文 GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた社会への貢献について

政府の第2GX実行会議では、原子力を不可欠な脱炭素エネルギーの一つに位置付け、専門家の意見も踏まえて、あらゆる方策の検討を加速する方針が示された。本会では、原子力アゴラ調査専門委員会において、地球環境問題に対する原子力発電の活用と役割について定量的かつ科学的な調査・分析結果に基づく検討を独立の立場で行い、エネルギー政策への提言とカーボンニュートラル実現に向けた提言を本年5月に出しており、専門家の意見も踏まえて検討が加速されることを歓迎する。

同会議では、安全性の確保を大前提としたうえでの原子力の最大限活用に向けて、原子力発電所の再稼働、運転期間の延長、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設、バックエンドを進めるための国の積極的な関与が、検討事項として示された。

本会では東京電力福島第一原子力発電所事故の分析を行うとともに、事故の教訓を踏まえた安全性向上策の検討や倫理の醸成等に取り組み、原子力発電所の安全性向上に寄与してきた。事故の教訓を踏まえて安全性が向上した原子力発電所は、エネルギーと環境の問題解決に向けて十分に活用されるべきである。また、再稼働およびその後の運転にあたり、技術、組織運営、安全文化、倫理等の継続的な改善とリスクコミュニケーションに、事業者や規制当局をはじめとする関係組織が取り組むことが重要であり、継続的に取り組むこととする。さらに、確かな情報の効果的な発信により、原子力利用の理解促進にも貢献していく。

原子力発電所の経年化対応に関しては、IAEAによるIGALLInternational Generic Aging Lessons Learned)をはじめ、国際的に多くの知見が積み重ねられているとともに、国内でも本会を含む様々な場で技術検討が進められてきた。原子力発電所が長期にわたって安全にその役割を果たすように、こうした検討成果を活用し、必ずしも一律の運転年限ではなく、科学的根拠に基づいて設備の安全な利用継続の可否が判断されるべきである。

新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉についても、本会において重大事故やテロ対策等の論点を深め、より安全でより合理的な次期軽水炉の設計方針を実現するための技術要件を取り纏めるとともに、SMR(Small Modular Reactor)等革新炉の安全設計等について検討を行ってきた。これらを次世代の原子力プラントに反映させて、安全性を向上させる必要がある。また、再生可能エネルギーの利用が増加する際の電力系統の安定性確保、電力以外のエネルギー供給の面でも、研究開発を進める必要がある。国においては、既に行われている研究開発支援に加え、今後は新たに建設が進むための社会的な仕組みの整備や、新技術に対応した安全規制の整備が、早急に進められるべきである。

バックエンドに関して、本会では再処理、廃止措置、廃棄物の処理・処分を安全に進めるべく、様々な検討を行うとともに、技術的指針となる規格基準を検討して標準図書に纏め、発刊してきた。また、社会におけるステークホルダの対話に資する発信にも取り組んでいる。これらの取り組みを継続するとともに、国によってバックエンドの取り組みが、さらに強化されることを期待する。

東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国において原子力利用を拡大することは容易なことではなく、国民や立地地域の皆様のご理解の下、上で述べた継続的な安全性の向上やバックエンド問題といった諸課題に真摯な姿勢で中長期的に取り組まなければならない。この取組を支えるためには、原子力に関する学術的・基盤的な裾野を幅広く保持するとともに、人材を確保・育成していくことが極めて重要である。本会では、大学・研究機関・産業界における魅力的な研究開発活動についても積極的に情報発信していく。また、原子力科学技術は、単にエネルギー源としてGXに直接的に役立つだけでなく、中性子線や放射光といった放射線を活用することを通して、燃料電池や超伝導材料の開発などにも役立つものである。

本会は原子力の安全性向上と原子力科学技術の幅広い活用に関して、引き続き専門家として独立の立場から学術、技術の発展に取組み、成果を提供することで社会に貢献していく所存である。

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