一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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会長挨拶

2024年度 第46代会長

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 大井川 宏之(おおいがわ ひろゆき)


カーボンニュートラルへ向けた世界的な潮流や、国際情勢に鑑みたエネルギー安定供給に対する危機感を背景に、多くの国々が原子力エネルギーの利用拡大に舵を切っています。我が国においても昨年、いわゆる「GX推進法」の成立などの動きがあり、今年には、次期エネルギー基本計画の議論も始まりました。原子力を取り巻く状況は大きく動きつつあります。また、原子力科学技術は、エネルギー源としてだけでなく、放射線や放射性同位体の利用等を通じて社会に様々な価値をもたらしており、医療、工業、農業、学術などの幅広い分野で利用の拡大が期待されます。

一方、原子力の利用に際しては、安全性、核セキュリティ、核不拡散、放射性廃棄物といった課題もあり、これらに起因する社会受容性の問題も含め、発展途上の技術であることも事実です。特に我が国では、東京電力福島第一原子力発電所事故からの復旧・復興を着実に進めるとともに、同事故の教訓に基づき安全性の向上に不断に取り組むことが必要であり、私たちが長期にわたって真摯に取り組むべき課題です。

このように、原子力科学技術は、国の根幹を支える分野であり、大きな可能性を秘めるとともに、克服すべき課題もあります。日本原子力学会(以下、「本会」という。)は、大学、研究機関、産業界などから多くの会員の皆様の参加を得ており、その特徴は、学術的に公平・公正でオープンな議論ができることにあります。多様な会員の皆様が互いに切磋琢磨しつつ議論を深め、共通の課題に取り組んだり新たな可能性を見出したりすることで、原子力科学技術を通して人類社会の福祉と繁栄、学術の振興に貢献することが期待されています。

この度、本会の会長に就任するにあたって、上記のような背景や本会に期待される役割を踏まえ、3つのキーワード、「伝える」・「つながる」・「はぐくむ」を旨として運営を進めていきたいと考えています。

一つ目は「伝える」、情報発信の強化です。本会では様々な支部、部会や常置委員会・専門委員会等が活発に活動しており、多くの成果が上がっていますが、社会に対しての発信力が弱い面がありました。これらの成果を効果的に社会に発信していくことは、本会の存在価値を高める上で極めて重要だと考えます。具体的にはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使った発信や、積極的なプレス発表などで、原子力科学技術の魅力と課題解決への取り組みを発信していきたいと思います。

二つ目は「つながる」、本会内外での連携の推進です。原子力科学技術は物理学、化学、機械工学、材料工学などの基礎科学・工学分野に根差した応用分野の色合いが濃く、これらの基礎基盤的な分野から乖離してはガラパゴス化してしまいます。また、計算科学やロボット工学などの最先端の科学技術を取り入れていくことも必要ですし、イノベーション創出には異分野間の連携も不可欠です。逆に、我々が原子力の課題解決の過程で培った最先端技術を他の分野・産業に展開させていくことも必要です。これらの観点から本会は、部会間の協力や、他の学協会などとのコミュニケーションを活性化して、相互に課題解決に向けた連携を図ることが必要だと考えます。まずは、既にある様々なチャンネルを通じての交流や情報発信を進めていきたいと思います。

三つ目は「はぐくむ」、人材育成への貢献です。原子力の人材育成の重要性は言うまでもないですが、若い研究者・技術者にとって原子力科学技術は、そして本会は、成長の場として魅力的に映っているでしょうか。一方、最近の年会・大会での学生さんによるポスターセッションを拝見すると、その質の高さには目を見張るものがあります。また、各支部や部会においても若手の発表会などをおこなっています。そのような取り組みを奨励するとともに、本会が課題や新しい技術に挑戦する姿を積極的に発信し、若い皆様とともに成長する学会として本会の価値をアピールすることに取り組みたいと思います。

結局、上記の3つの取り組みは、すべて積極的な情報発信がキーポイントになり、その帰結として本会を、社会からは信頼できる情報源として、他の学協会からは重要なパートナーとして、そして若い研究者・技術者からは成長の場として、それぞれ「選ばれる学会」にすることが目標です。会員の皆様には、是非ご協力を賜れますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。


2024年度副会長

佐藤 拓    原子力エネルギー協議会
越塚 誠一   東京大学
小崎 完    北海道大学