一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

学会誌の電子化移行について

学会誌ATOMΣ20251月号に学会誌の電子化移行についての会告を掲載しました。電子化移行によって会員の皆様方には多くの不便をお掛けする場合もあるかと存じます。今回、学会誌の電子化に至るまでの経緯と検討内容をお伝えします。

検討のきっかけ

学会誌の電子化は、本会の年度収支の赤字幅の削減を目的として、理事会直属の経営改善特別小委員会で2021年度から検討が始まりました。会員数は、2011年の震災以降、8,012人(2011年度末)から6,251人(2023年度末)に減少し、現在は減少傾向が緩やかになったものの、減少自体に歯止めはかかっていません。この結果、会費収入の減少により収益は減り続け、2018年には遂に赤字に転落しました。それ以降、途中、コロナ禍による旅費等の支出抑制などによる2020年度の単年度黒字を除き、2022年度まで赤字決算が続きました。2023年度、2024年度は黒字化しましたが、論文誌と国際会議の開催などによる収入増加が寄与した結果です。論文誌は今後、予想されるオープンアクセス化の進行と世界的な掲載料無料化といった趨勢を考えると、収入源として安易に依存することができません。また、国際会議は日本国内での開催頻度がさほど多くないことから、恒常的な収入源としての期待は難しいです。このように、依然として本会の支出削減の必要性は変わっていないため、学会誌の電子化検討を継続しました。

検討内容

学会誌の電子化に当たっての主な課題は次の4点でした。①本当に収益改善に寄与するのか? ②会員の理解は得られるのか? ③退会者を増やし、むしろ収益悪化につながるのではないか? ④広告出稿社様のご理解を得られるのか?

本当に収益改善に寄与するのか(①)と退会者の誘発(③)は表裏一体ですし、会員の理解が得られなければ(②)、やはり退会者の誘発(③)を引き起こします。広告収入の減少(④)も回避したいことでした。

まず、収益改善評価として、電子化による退会者数のケーススタディを実施しました。今回、冊子版配布を希望する会員向けの会費を12回分の印刷及び郵送費用にほぼ相当する2,000円の増額と設定すると、約800人以上の退会者が出ない限り、収益悪化とはならないことを確認しました。ただし、PDF版へのアクセス性が高く、むしろ電子化を歓迎する層の多いであろう学生会員と、冊子版送付を希望しても会費を据え置くこととした会費割引制度を利用している会員からの退会者は少ないと考え、ケーススタディが収益悪化側に振れるよう、退会者は全員正会員と設定しました。退会者800人という数字は、正会員の約15%というかなり大きな割合であり、そこまでは急減しないのではないかと考えました。また、仮に一定の退会者が発生したとしても、今後、新規入会者は電子版に抵抗の少ない方が増えてくると考えられ、会員数の挽回を期待できること、ならびに電子版を読む環境が整っていないケースが多いと想定される退職者向けの会費割引制度の利用者には従来と同じ会費で冊子版を配布することとし、退会を抑制できることから、20243月の理事会で、電子化移行方針を確認するとともに、会員アンケートの実施を決めました。また、他学会の学会誌電子化状況も調査したところ、多くの学会(機械学会他、比較的大規模な8学会)で学会誌の印刷物発行は継続されつつも、オンライン化が進められていることを確認しました。

なお、経営改善効果は退会者数に依存しますが、仮に退会者が発生しなければ、約1,000万円の改善が見込まれ、これは現在の本会収入を約5%増加させることになります。新規入会者に単純換算すれば、新たに1,000人の会員を得たことに相当します。

会員サービスの観点からは、電子化した学会誌がどの程度の利便性を確保できるかも重要です。電子化しても会員の皆様にご覧いただけないのでは意味がありません。このため、まずは学会誌の電子版を作成し、会員の皆様が閲覧できる環境を整え、その上で、電子版をご覧になれる環境がどれほどあるのかを調べるという狙いも含めて会員アンケートを行うことにしました。

会員アンケートの実施

2023年9月から会員専用ページにPDF版学会誌の掲載を始め、1年間の掲載期間を経て、20249月末から3週間、会員アンケートを実施しました。具体的には、会員専用サイトでの電子アンケートと、そもそも電子版にアクセスできない会員からのご意見を聴取する必要もあることから、学会誌202410月号に返送料着払いのアンケート用紙を封入して会員の皆様にアンケート回答をお願いしました。寄せられた回答数は1,125件であり、これは会員数の19%に当たります。他の多くの会員向けアンケートでは2%に満たない回答数しか得られないことを考えると、多くの会員に関心を持っていただき、実際に回答していただいたと考えています。アンケート結果の概要は以下のとおりでした。


 

また、自由記述欄にいただいたご意見のうち、電子化に否定的なご意見の主な趣旨は以下でした。

  • 値上げは困る。値上げ反対。
  • 2,000円の値上げは大き過ぎる。2,000円の妥当性が不明。
  • 電子化するのであれば会費を値下げするべき。
  • 値上げではなく、紙質の低下など、他の方法で賄うべき。
  • 無駄な業務を廃止するなど、値上げの前に本会全体を合理化すべき。

逆に、肯定的なご意見の主な趣旨は以下でした。

  • 会費を値上げするよりも電子化し会費は据え置く方がよい。
  • ペーパーレスは資源節約にもなる。
  • 電子化は時代の流れ。
  • (消極的な肯定のご意見)諸物価高騰の中、妥当。やむを得ない。

いただいた否定的なご意見について、理事会として真摯に受け止めています。今回の電子化移行は、ある意味、苦渋の選択でした。理事会では、毎月、会員数が減少していく傾向が報告され、他方、新たな収益向上策が限られる中、理事会として、学会誌の電子化は経営を安定させる有力な方法のひとつでした。

電子化においては改善も進めてまいりました。例えば、会員専用サイトへのPDF版の掲載当初は、単に学会誌を丸ごとPDF化したものを掲載していましたが、今年1月号からは、時間を要する全体ダウンロードをせずとも個別の記事を読めるよう、記事のリンクを掲載しています。もちろん、全体の一括ダウンロードも可能です。

今後も読みやすく、利用しやすい学会誌とするため、改善してまいります。会員の皆様からの改善の要望をお待ちしています。

佐藤拓(副会長:経営改善特別小委員会委員長)