一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

「原子力総合シンポジウム2023」報告

1.はじめに
 原子力総合シンポジウムは、わが国の原子力について総合的に議論を行う場として、1963年以来継続的に開催されている。2023年度は、日本学術会議総合工学委員会(委員長 玉田薫)および総合工学委員会原子力安全に関する分科会(委員長 関村直人)が主催し、日本原子力学会をはじめ23学会の共催、15学会の協賛、6学会の後援のもとに、2024年1月22日(月)、日本学術会議講堂においてオンラインとのハイブリッド形式で開催された。
 2023年度のテーマは「社会に貢献する原子力の役割と課題」であり、革新軽水炉を中心に5件の招待講演および総合討論を行なった。

2.プログラム(敬称略)
開会挨拶:関村直人(日本学術会議連携会員、東京大学副学長・教授)
招待講演
司会:森口祐一(日本学術会議第三部会員、国立環境研究所理事)
 日本のエネルギーと次世代革新炉の役割 橘川武郎(国際大学学長)
 原子力が本当に活かすべき教訓とは:科学技術の社会学の知見から 寿楽浩太(東京電機大学教授)
 革新軽水炉に求められる特徴 山本章夫(名古屋大学教授)
司会:岩城智香子(日本学術会議連携会員、東芝エネルギーシステムズ(株)シニアフェロー)
 原子力と多様性 岡田往子(原子力委員)
 事故後13年の原子力規制の歩みと課題 山中伸介(原子力規制委員長)
総合討論
 コーディネーター:関村直人
 パネリスト:招待講演の各講演者、新堀雄一(日本原子力学会会長)、森口祐一、岩城智香子
閉会挨拶:小山田耕二(日本学術会議連携会員、大阪成蹊大学教授)

3.招待講演と総合討論の概要
 招待講演としてまず橘川氏より経済学の立場から、政府によるGX推進の方針およびその中に位置づけられている原子力発電について述べられた。リプレースが早急に必要であるにもかかわらず、具体的な政策が不十分であると指摘された。続いて、寿楽氏からは社会学の立場から、1F事故にもかかわらず原子力リスクの破局性に対してまだ十分に答えられていないとの問題提起があった。山本氏からは、日本原子力学会「次期軽水炉の技術要件検討」ワーキンググループでまとめられている、次期軽水炉が備えるべき技術要件について報告された。深層防護の実装、外的事象への対応、テロ対策、不確かさへの対応などを設計段階から考慮することで安全な次世代炉が実現できるとの内容であった。次に岡田氏より、自身の放射性物質の環境動態に関する研究、原子力委員会の活動および原子力分野のジェンダーバランスの現状と課題が述べられた。最後に、山中氏より1F事故後に発足した原子力規制委員会のこれまでの活動の紹介があった。1F事故を忘れるなという教訓とともに規制活動における継続的改善が重要であると述べられた。
 その後、関村氏をコーディネータとして、招待講演者5名に新たに3名が加わり、総合討論が行われた。まず、新たな3名として日本原子力学会会長の新堀氏、招待講演で司会を務めた森口氏および岩城氏から、それぞれショートプレゼンが行われた。新堀氏のショートプレゼンでは、原子力の活用の議論の深化や、ステークホルダー間の信頼感の醸成を目指すべきとし、日本原子力学会の最近の様々な取組が紹介された。特に、1F事故を防げなかったことを基軸に、会員の所属する組織の枠を超えた議論を進めていくことが重要であると述べられた。その後、(1) エネルギーの選択肢としての原子力の課題と社会の多様なステークホルダ、(2) 原子力エネルギーのリスクはいかにマネージしうるか、の観点から意見交換が行われた。原子力分野には様々なステークホルダが複雑に絡み合っており、その中で丁寧に対話を進めていくことが重要であるなどの議論がなされた。また、革新軽水炉においても既設炉同様に、わが国では自然災害のリスクが大きいとの指摘があった。
 出席者は講演者を除いて、405名(現地参加:44名、オンライン参加:361名)だった。参加者へのアンケートの回答には、幅広い専門家による多様な議論を聞くことができて良かったというものが多く見られた。
 なお、講演資料は日本原子力学会のホームページに公開されている[1]。

4.おわりに
 原子力総合シンポジウムは、原子力の黎明期に開催されていた「原子力研究総合発表会」が1963年に「日本原子力学会年会」と「原子力総合シンポジウム」に分離し、総合講演・討論会の部分を受け継いだものである。第1回は24学会の共催、原子力委員会・日本学術会議・日本原子力研究所・原子燃料公社・日本原子力産業会議の5機関の後援で開催されており、現在は日本学術会議が主催している。日本学術会議は、太平洋戦争の記憶が残る時代にわが国が原子力の研究開発を開始するにあたって、研究者の議論を経て「民主・自主・公開」の原則を主張し、これは原子力基本法に掲げられることになった。今日、原子力の役割をあらためて位置づけていくためには、議論を深めていく場として本シンポジウムがふさわしいのではないだろうか。
 日本原子力学会事務局には当運営に関して大変お世話になり、感謝申し上げます。

参考文献
[1] https://www.aesj.net/genshiryoku-symp

越塚誠一(副会長、日本学術会議総合工学委員会原子力安全に関する分科会副委員長、東京大学教授)